第6話 モビリティの未来

2017年04月15日

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国を挙げて「水素燃料電池」に力こぶを入れている日本ではそれほど注目されていないものの、電気自動車が全世界で120万台(累積)を越えて普及に勢いが増しています。しかも、自動運転や共有経済(シェア・エコノミー)など新しい流れをも含んだ新しい変化が見えてきているのです。

先頭に立つのは、イーロン・マスク氏率いるテスラ社の電気自動車です。「自動車界のiPhone」と喩えられるほど、電気自動車界のみならず自動車界に大転換を起こしました。テスラの電気自動車は、「エコだから不便でも不格好でも我慢して乗る車」ではなく、「クールな高級スポーツカーでありながらエコ」というコンセプトとして登場し、セレブなどにダントツな人気を誇り、売上げを倍々ゲームで伸ばしてきました。そのテスラ社のイーロン・マスク氏が2016年7月に発表した「次の10年」を指し示すロードマップには、同社を越えた近未来予測に近い内容が含まれています。

その筆頭が、屋根の太陽光発電と蓄電池の組合せで誰もが簡単になれる「自然エネルギー発電会社」を世界中に拡げるというものです。そのために同社はすでに分散型で屋根置きの太陽光発電を拡げているソーラーシティ社を統合しています。

完全自動運転の実現で人の運転より安全性を十倍以上に高めることや、各ユーザーが自分のテスラ車を共有(カーシェアリング)することで自家用車の稼働率を高めて社会全体の自動車のストックを小さくしユーザーの方は収入も得られる、ことなども重要なロードマップです。

電気自動車のカギを握る小型電池は、普及による技術向上によって性能が向上し価格も過去8年で10分の3に下落しました。今年中に航続300km・充電30分・400万円という普及のカベを越え、この技術向上はなお加速しています。太陽光発電の価格もすでに述べたとおり、1975年から200分の1、2010年の5分の1に下落し、補助金なしで蓄電池+太陽光発電で自給できる日もそう遠くないと思われます。

こうした分散エネルギー技術の成熟に加え、自動車は、グーグルやアップルなどグローバルIT企業が、スマホ(携帯電話)に次ぐ次の主戦場としてしのぎを削り、相次いで電気自動車の自動運転に参入してきています。また部品点数が圧倒的に少ない電気自動車には、中国なども数多くの起業が設立・参入してきており、カーシェアリングによる販売数の減少の可能性と合わせて、自動車産業にエネルギー・IT・共有経済それぞれを織り込んだ大変革に繋がる可能性があります。いわば、テスラとグーグルが自動車の「OS」を競い、その製造は中国が囲い込む構図が見えてきています。

そうした中で日本を振り返ると、安倍政権は去る4月11日に水素を利用する「燃料電池車」を、現在の1800台から2020年までに4万台程度に増やすことを目指す基本戦略策定する方針を定めています。トヨタもホンダも脳天気に「燃料電池車」の開発にかまけています。これは、上に述べた世界の大潮流から完全に外れた方向で、まるで世界の現実が見えていないと言わざるをえません。これでは半導体・家電・重電・自然エネルギーと「負け続け」ている日本の産業界の中で唯一残る日本の自動車産業の行く末が真剣に危ぶまれます。

2020年には世界的には間違いなく自動運転の電気自動車が主流になる中、日本だけが「化石(燃料)カー」と「ガラ(パゴス)カー」を走らせているのでしょうか。