第33話「大災害がエネルギー自立を加速させる」

2019年10月29日

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今秋、立て続けに首都圏を襲った台風15号と台風19号による豪雨・暴風災害の爪痕は、まだ生々しい。千葉県では長期間の停電を強いられたことや、災害中に太陽光発電と蓄電池、電気自動車(EVやPEHV)が大活躍をしたニュースもあって、これらの大災害を通して間違いなく人々の間でエネルギー自立意識が一気に高まったようだ。

台風15号は、過去最強といわれた勢力を保ったまま、9月9日午前5時頃に千葉市付近に上陸した。千葉県各地で観測史上最大となる瞬間最大風速45メートルを記録、各地に大きな被害をもたらして、東京電力パワーグリッド管内で約93万戸が停電した。2018年に関西を襲い240万戸もの停電を引き越した台風21号でも5日間で復旧できた経験をもとに、当初は1週間程度で復旧可能との見方だったが、実際に全面復旧したのが9月27日と18日間も要し、市民生活に甚大な影響を及ぼした。東日本大震災時でさえ東電管内で全面復旧に要した日数は9日間であり、台風15号による被害規模の大きさが分かる。

長期化した背景には、予想をはるかに超える暴風で、電柱や鉄塔だけでなく、大量の倒木によって作業が阻まれたと報じられている。とはいえ、山中を貫く高圧鉄塔と街中に見苦しく立ち並ぶ電信柱という、古色蒼然とした日本の送配電設備の有り様が、予想を超える暴風に対して脆弱だったことは論を待たない。ちょうどその時にデンマークの電力受給管理センターを訪問していた筆者に対して、先方の技術者が「デンマークでは絶対に起きえない停電だ」と誇らしげに言った。デンマークの配電線は全て、高圧線も超高圧を除いてはほとんどが地中化されているからだ。日本でも、長い時間と巨額の費用は掛かるが、今後もますます気候変動による災害が強まると見込まれている中、腰を据えて再構築が必要な時だろう。

ところで、長期間に及ぶ停電時に、太陽光発電の有無、さらには蓄電池の有無が、被災時の生活の質で決定的に大きな差が生じたようだ。まだ猛暑が続く中、冷蔵庫やエアコンが使えず、断水でトイレもシャワーも使えず、携帯の充電さえままならないといった日常生活に支障をきたす人が多い中で、太陽光発電や電気自動車が役に立ったという声が、ネット上や報道でも、多数見かけた。ほぼすべての住宅用太陽光発電は、非常時に使える「自立運転機能」を備えており、「自立運転モード」に切り替えて専用コンセントに繋げば、日中だけだが1500Wの電気が使えるからだ。

台風15号の停電解消後に、住宅用太陽光を設置している家庭114件に対して行われたアンケート調査では、冷蔵庫やエアコン、洗濯機が日中だけでも使えたことや、PC・スマホの充電ができたことなどで、圧倒的に高い満足度が示されていた[1]。同時に、蓄電池の必要性の実感も一層高まったという回答が多い。

ところが、家庭の外では、そういうわけにはいかない。昨年の北海道で起きた全道ブラックアウトでも同じだったが、せっかくの太陽光発電や風力発電、バイオガス発電なども、広域停電が生じると強制的に停止・遮断される。安全面の措置とは言え、大規模電源の脆弱さを補う分散型発電の強みが活かされないのは残念極まりない。ここ一連の地震や台風の大きな被害を見ながら、あらためて、日本の電力系統のあり方を根底から見直す時が来たように思える。従来からの上から下に一方的に電力を送る中央集中型・ヒエラルキー型のネットワークから、家庭や地域など多層レベルで自立する双方向の分散ネットワーク型のマイクログリッドへ。技術的にも、AIなど新しいテクノロジーなどをどんどん活用すべきだろう。たとえば、VPP導入で先行する豪州のDSO(配電システムオペレーター)では、インターネット通信と同じように、VPP事業者とAPIプロトコルを最終調整していた。人々の考え方はすでに大きく変わりつつある。残るは、旧い制度と体制を見直せるか、政治判断だけだろう。

 

[1] ソーラーパートナーズ社” 千葉大規模停電で太陽光発電・蓄電池はどう活躍したのか?【停電経験者にアンケート調査】”2019年10月3日 https://www.solar-partners.jp/battery/85368.html