第32話「ファーウェイ訪問記」
トランプ米大統領が仕掛けた米中貿易摩擦の主戦場の一つである次世代通信技術5Gで、米国から排除されたファーウェイ(華為技術)の深センにある本社・工場・研究所を訪ねてきた。そもそも「ファーウェイ排除」は、5G技術開発で中国に追い越された米国の焦りを背景にして、いかにもトランプ大統領らしい「でっち上げ」と「言い掛かり」に他ならない。そのため、ドイツはもちろん、米国の盟友たる英国も相手にしていない。
とはいえ、米国の顔色ばかり見る日本政府や企業は、この「言い掛かり」に安易に追随する方向だ。これは愚かな判断であり、元中国大使で伊藤忠商事の元会長の丹羽宇一郎氏も警告している。ともあれ、やり玉に挙がっているのは5Gであり、本来、太陽光発電業界でも広く採用されているファーウェイのパワーコンディショナー(パワコン)は関係ないはずだが、根拠のない「空気」や「忖度」が流布するこの国では、パワコンでさえファーウェイを敬遠する声を聞くようになった。ちょうどそのタイミングでファーウェイを訪問する機会を得たので、さっそく出かけてみたのだ。
中国のシリコンバレーと呼ばれる深センの中心中の中心企業であるファーウェイは、20万人近い従業員を擁し、その4割の8万人以上が研究開発チームである。深セン北西部にある松山湖の周辺の広大な敷地にヨーロッパの12の大学都市を模した研究開発「キャンパス」が分散して拡がり、北京大学や精華大学の理工系で最優秀な学生の上位数割が毎年入社するという。新入社員の最高年棒は3千万円にも達するという。同じ松山湖の近郊に、それ以上に広大な敷地にファーウェイの工場があり、さすがに5G製造ラインは見せてもらえなかったが、4G製造ラインとパワコン製造ラインは見せてもらうことができた。トヨタに倣ったカンバン方式で、ほとんどのラインで自動化が進み、自社内に第3者検査機関を持って、パワコンに関しては全数検査・欠陥率ゼロを保証する徹底ぶりだ。
ファーウェイは太陽光発電のユーザーと競合しない哲学を掲げ、自社では太陽光発電事業は行わない方針を貫いているが、自社工場の屋根だけは別だ。その本社工場の広大な屋根に17MWもの太陽光発電を並べ、自社工場の電力の約1割を賄うほか、自社製品のパワコンをさまざまな実証試験や耐久試験をしている。高温70度や上下からの激しい水吹きつけなど世界各地の過酷な気象を模した試験、あるいは急成長している両面モジュールの出力を最適化する実証試験などだ。
何と言っても、ファーウェイのパワコンの性能を見て、やはり時代は「分散型」だと確信した。現時点で世界最大の1.3GWの太陽光発電事業を筆頭に、日本を含む合計90GWもの太陽光発電所に、自社の50kWの分散型パワコンが採用されている。単純に考えても分散型は、一つのパワコンが故障しても全体に及ぼす影響が軽微である。加えてファーウェイの場合は、一つのパワコンに8本のストリングがあり、そのストリングレベルでのエラーを常にAIとビッグデータと通信を駆使して監視・チェックし、トラブルの生じた太陽光パネルのストリングの出力をリアルタイムで検知して迅速な修復ができるほか、そのトラブルの間は残ったストリングからの発電量を最大化するように自動調整できるというのだ。
通信会社でありAI・IoT・ビッグデータの会社でもあるファーウェイは、自社のパワコンを、自信を持って「スマートPV」と呼んでいる。その真価を垣間見た深セン訪問であった。