第29話「南オーストラリア州の挑戦」

2019年06月20日

3月に既報した南オーストラリア州を、10連休のゴールデンウィーク中に視察する機会があったので報告する。一部の情報は3月号と重複することをお許し願いたい。

 

■世界最高のVRE(太陽光発電+風力発電)比率

すでに太陽光発電と風力発電が世界のほとんどの国や地域で最も安い電源になったことから、自然変動型電源、すなわち太陽光発電+風力発電を系統電力の中にどれだけ高い比率で導入できるかが、自然エネルギー100%に向けた挑戦の当面のベンチマークとなっている。国際的には、それを4段階に分けている。すでに年平均でVRE 比率が50%近い南オーストラリア州(2018年は53%)は、40%超のデンマークと並んで「第4段階」に突入している[1](図1)。VRE 比率が年平均で50%ということは、ある時には0%、またある時には需要の200%を越えることもある、という水準だ。

図1 世界各国のVRE比率1)
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南オーストラリア州(SA州)は、この高い水準のVRE比率にわずか20年弱で到達している(図2、図3)。1980年頃から40年かけて風力発電を拡大してきたデンマークと比べて、倍のスピード達成だ。
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■自然エネルギーを急増させた同州を襲った大停電

SA州の電力需要は、平均1500MW、最大3000MW規模で、北海道のおよそ半分の規模だ。東隣のニューサウスウェールズ州(NSW)と交流(AC)600MW、南東のヴィクトリア州(VIC)とは直流(HVDC)500MWと2つの州と連系して、全豪電力市場(NEM)と接続している。

域内に揚水発電はなく、全豪電力市場の需給調整市場(FCAS)で高い水準のVRE比率に伴う出力調整をしていたところ、2016年9月にNSW州との連系送電線が暴風雨で20基ほど倒壊し、全州ブラックアウトを引き起こしてしまった。

それに対して、州政府が数百億円を掛けた全州ブラックアウトに対する対策の一つが、テスラ「ザ・ビッグバッテリー」である。テスラ社のイーロン・マスクCEOが「半年で完成しなければ無償提供する」と豪語したとおり、2017年7月に建設開始し半年後の同年12月には完成したものだ(図4)。

図4 テスラ「ザ・ビッグバッテリー」(ホーンズデールパワーリザーブHPR)
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■テスラ「ザ・ビッグバッテリー」が立証した蓄電池新時代

100MW・129MWhという現時点で世界最大の規模を誇るこのテスラ「ザ・ビッグバッテリー」、正式名称は地名を取って「ホーンズデールパワーリザーブ」(HPR)と呼ばれる。70MWは州政府との契約により停電等の緊急時対応のために用いられ、残り30MWは所有者であるネオン社が収益のために活用できる。

まず、収益の方だが、HPRは天然ガスなど従来電源と比べて高品質・高速での周波数調整サービスに参加できる。完成から1年間の実績で、約4000万豪ドル(約30億円)の周波数調整コストの削減に成功したと試算されている。総投資額が約70億円であるから、2年あまりで投資回収できることになる。

停電防止でも大きな力を発揮した。昨年8月25日に、SA州とは直接は連系していないクイーンズランド州でトラブルがあり、そのせいでNSW州の周波数が大きく逸脱する事象が発生した。それをこのザ・ビッグバッテリーが見事に瞬時に対応し、周波数逸脱に伴う停電を未然に防いだのだ(図5)。
図5  2018年8月25日事象時のザ・ビッグバッテリーの対応
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このザ・ビッグバッテリーの「成功」を目の当たりにして、同州を初めとして、全豪で大型バッテリーの導入が目白押しの状況にある。

 

■分散型蓄電池のVPPへの挑戦

同州は、さらに野心的なプログラムを進めている。今年から来年にかけて、テスラ社による5万戸のソーラー+蓄電池(各5kW)と、同社以外による4万戸の蓄電池(約5kW)、合わせて500MW規模の分散型蓄電池が仮想発電所(VPP)として、州政府の補助のもとで導入される見込みだ。

同州の配電事業者(DSO)にあたるSA Power Networkでは、こうした系統システムの大転換への対応に真摯に向き合っている。かつては夏熱い地域で夏期昼間のエアコン需要ピークに対応していたが、その後急速に州の平均需要規模の3分の2もの大量の住宅用太陽光発電が導入されたことで、昼間の太陽光発電からの逆潮流と夕方に向けての逆潮流の急減と需要ピーク(ガチョウに似ていることからダックカーブと呼ばれる)という需給の急変に対応を追われている。今後は、平均需要規模の3分の1もの大量の分散型蓄電池の導入が一気に進むことから、いっそう双方向の系統ネットワークとしての対応が求められる。VPPを束ねるテスラ社等とも、需給調整の通信プロトコル(API)の整備と調整の真っ最中である。

 

自然エネルギー拡大で、一気に世界のトップに躍り出た南オーストラリア州は、テスラののザ・ビッグバッテリーの「成功」で、さらに次代を切り開いた。しばらく、南オーストラリア州から目が離せない。