第28話 「プロシューマージャー」がもたらす「新しいビジネスモデル」と「産業構造の大転換」

2019年05月23日

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前回に引き続いて、フェイレイドン・シオシャンシ博士が編著した「プロシューマージャー」(Prosumager)―電力を生産し(Produce)、消費し(Consumer)、貯蔵する人(Storager)―の後編をお届けする[1]

[1] Edited by Fereidoon Sioshansi, “Consumer, Prosumer, Prosumager 1st Edition – How Service Innovations will Disrupt the Utility Business Model”, Academic Press Feb.2019

 

■新しいビジネスモデル

どのようなイノベーションでも、実行可能なビジネスモデルを見つけなければ活きてこない。このビジネスモデルが本書の後半の焦点となっている。

まず、スマートメーターの展開と分散型再生可能エネルギーの拡がりによって、従来は上(発電)から下(消費者)への一方通行だった電力ネットワーク(とくに配電)の管理が根底から変わる。 自家消費や電力の逆潮流、地域のエネルギーコミュニティやマイクログリッドなどが、配電事業者の伝統的なビジネスモデルに挑戦することになる。

最終的な転換は、上位系統に連系されていない独立したマイクログリッドの開発であろう。 そのような独立型マイクログリッドは、既存のネットワークが良好な先進国では、ほとんど出てこないだろうが、未だに電気が利用できない世界の最後の10億人を電化する上で主要な役割を果たすだろう。その場合も「ペイ・アズ・ユー・ゴー」(プリペイド式の課金)などの新しいビジネスモデルとの組合せになると考えられる。

また、もちろん、低コストのエネルギー供給という最も単純なビジネスモデルから、ブロックチェーンを用いたP2P(個別相対)取引、仮想発電所(VPP)、デマンドレスポンス事業者などの、より洗練されたビジネスモデルまで、さまざまな新規参入者が予想されます。

 

■産業構造の大転換へ

電気自動車の普及が強気の予測どおりに進展した場合、最強の新規参入者は輸送部門であり、その参入自体が電力部門を大変革させる可能性がある。 V2G(電気自動車と系統との相互融通)のビジネスモデルは、電力ネットワークにとって、柔軟性の獲得と需給管理方法を根本的に変える可能性がある。太陽光発電が大量かつ安価に発電される日中の昼間に非常に大きな割合で自然変動する太陽光発電の電力が保存できるようになる。

輸送部門自体もまた、電気自動車と自動運転、ライドシェアの組合せから成る「輸送のサービス化」(MaaS)によって、大転換が起きつつあり、それが石油部門に破局的な影響をもたらす可能性を孕んでいる。

今日、輸送部門を含むエネルギー分野は魅力的な領域である。 それは同時に、私たちの繁栄の源泉であり、気候変動の主な原因でもあり、それが最終的に私たちの文明を破壊する可能性もある。 私たちが目撃しつつある変化の規模を考えると、この魅力的な部門は、その刺激的な大転換の展望とともに、何らかの形であらゆる人に影響を与えることになるだろう。

[1] Edited by Fereidoon Sioshansi, “Consumer, Prosumer, Prosumager 1st Edition – How Service Innovations will Disrupt the Utility Business Model”, Academic Press Feb.2019