第26話 蓄電池の新時代
昨年9月6日未明に発生した震度7の北海道胆振(いぶり)東部地震により、前代未聞の北海道全域停電(ブラックアウト)が発生したことは、まだ記憶に新しい。震源近くにある苫東厚真火力発電所が被災し、北海道電力の総発電量の半分以上を供給していた石炭火力発電3基(合計出力165万キロワット)が停止し、発電できなくなったことで、道内の他の発電所も順次停止し、日本では経験したことのない北海道全域停電、いわゆる「ブラックアウト」に陥った。
国が設置した検証委員会は、大型火力発電所3基の同時停止と送電線事故による水力発電の停止が重なる極めて希な「複合要因」が原因とし、北海道電力の設備形成や地震後の設備運用は「必ずしも不適切だったとは言えない」と結論づけた。この結論はどうみてもおかしい。全道ブラックアウトの本質的かつ構造的な原因は、大型発電所3基が同じ場所に集中して立地していることだからだ。「一つの籠に卵を全部入れる」過ちを犯しているのに、その本質を見ないまま、北海道電力もその後、何ら抜本的な対策を取っていていないのだから、呆れるばかりだ。
ところで、オーストラリアの南オーストラリア州でも16年9月に暴風雨が原因で全域停電した経験がある。同州は、この経験を踏まえ、総額数百億円の対策を講じたが、その目玉が、世界最大(当時)となるテスラ社の大型蓄電池(100㎿)の設置だった。停電の1年後、2017年12月に完成し、このほど、約70億円という初期投資額とこの1年間の運転実績が公表された。それによれば、この大型蓄電池のお陰で、停電リスクが下がっただけではない。ガス火力発電が担っていた日常の出力調整も、この蓄電池が担うようになったことで、最初の1年で約30億円も稼いだと伝えられている。わずか2年あまり初期投資を回収できる見通しだ。事前には、誰もが予想しなかった投資効果をあげている。
この成功に刺激されて、南オーストラリア州ではさらに複数箇所の蓄電池設置の計画が進展しているほか、自然エネルギーの導入を進めるオーストラリアの他州でも大型蓄電池の設置計画が一気に増えた。南オーストラリア州は、系統における「自然変動型電源」(VRE=風力+太陽光)の比率が年平均で50%に迫り、デンマークと並んで世界で最もVRE比率の高い地域であり、この大型蓄電池が増えることで、ますますVRE比率を高めることができるはずだ。同州には、5万戸の家庭に蓄電池と太陽光発電を設置してインターネットで繋ぐ「仮想蓄電・発電所計画」まである。背景には、蓄電池の急速な価格低下と自然エネルギー拡大計画との相性の良さがある。
北海道ブラックアウトの本質的な原因に向き合わず、旧い技術と権益にしがみついたまま、急激に進みつつある自然エネルギー100%に向かう世界の流れに背を向けるならば、日本社会そのものが「ブラックアウト」するのではないかと心配だ。