第25話 エネルギー変革がもたらす「新しい世界」

2019年02月12日

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昨年、太陽光発電は世界全体で前年比10%増となる109GWが設置され、累積で500GWに達した[1]
風力発電は前年と同水準の50GW強・累積で600GWとなり、前年比63%増・2百万台が販売された電気自動車(プラグインハイブリッド車を含む)と併せて、エネルギー変革の主役をなす「3本柱」は引き続き、市場拡大を続けている。

こうした再生可能エネルギーの急速な普及を促進している原動力は6つある。
①急速なコストの低下、②汚染や気候変動への対応、③多くの国や地域における再生可能エネルギー導入目標、④継続的な技術革新、⑤グローバル企業や投資家による社会的約束と行動、そして⑥世界中の世論の高まりと市民の行動、の6つだ。

年明けに、こうしたエネルギー変革がまったく「新しい世界」をもたらすという、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)による報告が注目を集めた[2]

「風力と太陽光は、過去10年間以上、前例のない速度で成長し、一貫して期待を超えている。
これは、ある燃料から別の燃料への単なる移行ではない。エネルギー部門を超えて、はるかに大きな社会的、経済的および政治的影響をもたらすであろう。100年以上にわたって支配的であった従来のエネルギー地政学の「世界地図」とは根本的に異なる、新しい地政学的現実をもたらすだろう。」と予測している。

再生可能エネルギーが従来からのエネルギー地政学を変える理由は、大きく4つある。
第一に、資源が特定の地理的場所に集中している化石燃料とは異なり、ほとんどの国々で何らかの形で利用可能であることだ。
第二に、化石燃料はストック(枯渇性資源)だが、太陽エネルギーは無限かつ無尽蔵の資源フローであることだ。
第三に、再生可能エネルギーは小規模から大規模まであらゆる規模で整備することができ、分散型のエネルギー生産と消費に向いていることだ。 このため、再生可能エネルギーの民主化効果が高まる。
第四に、再生可能エネルギー源は限界費用がほぼゼロであり、とくに太陽光や風力は、設置容量が拡大するにつれて、技術学習効果によってコストが削減してゆく。 これによって、変化はますます促進されるが、同時に、電力部門の安定性と収益性を確保するための規制上の解決策が必要となる。こうしたことから、エネルギー転換は、人口統計学、不平等、都市化、技術、環境の持続可能性、軍事力、そして国内の政治の動向とともに、21世紀の地政学を一変させると指摘する。

具体的には、どのようなパワーシフトが起きるだろうか。

エネルギー安全保障の観点から、 中国はエネルギー転換からもっとも大きな利益を得る。製造業でも、再生可能エネルギー技術の革新と展開においても主導的な地位を占めてゆく。 欧州と日本は化石燃料の輸入に大きく依存している主要経済国であり、同時に、再生可能エネルギー技術において強い地位を占めているため、もっとも有利な位置にある。ドイツが進めてきた「エネルギー転換」は、同国を世界の先駆者とした。中東および北アフリカ、ロシアなどの化石燃料資源国は、GDPの4分の1以上の純化石燃料輸出をしており、今後、他の同様な国々とともに、化石燃料収入の減少に最もさらされてゆく。輸出収入の減少は、世界的な影響力が低下し、国内的には経済成長や国家予算に悪影響を及ぼすため、 未だに化石燃料収入がある間に経済的混乱を防ぐ予防的な対応を取る必要がなる。

本来なら日本は、すでにドイツや中国がそうであるように、技術革新のリーダーとして、世界のエネルギー転換から最大の利益を得ることができる国である。ところが、今、登場しつつあるエネルギー変革がもたらす「新しい世界」を理解しないまま、旧いエネルギー体制に固執したままでは、みすみす世界史的な大きな機会を逃してしまうのではないだろうか。

 

[1] Bloomberg NEF (BNEF) Jan. 16th 2019 https://about.bnef.com/blog/clean-energy-investment-exceeded-300-billion-2018/

[2] IRENA Jan. 10th 2019 https://www.irena.org/publications/2019/Jan/A-New-World-The-Geopolitics-of-the-Energy-Transformation