第22話 太陽光発電は「現代の黒船」となった 〜大局的視点から見た「再エネ主力電源化」〜
7月3日に「第5次エネルギー基本計画」が閣議決定された。内容は見るべきものもなく、すでに批判ずみだが、「再エネ主力電源化」というキーワードだけは日本のエネルギー政策の大きな転換点として歴史に残るだろう。
太陽光発電をはじめとする日本の再生可能エネルギー市場や電力市場は、政策としては問題が山積みだが、現実を見ると、わずかこの数年で日本の太陽光発電は42GWと中国に次ぐ世界第2位の設備容量を誇るまでになった。今年、九州電力では太陽光発電が昼間の需要の8割以上をまかない(5月3日)、四国電力では再生可能エネルギー電力の合計が需要を上回った(5月20日)。日本各地で記録的な酷暑の今夏だが、かつて電力供給が綱渡りだった夏の昼間は、太陽光発電のお陰でもはやピークではなくなり、大半の原発が止まっていても電力需給の問題はまったく見られない。「節電」として見える家庭用太陽光発電を加えると、東京電力だけでもおよそ原発4基分の太陽光発電が夏の昼間の供給を担っている。ここ数年、日本のエネルギー分野で起きていることを、少し大きな視野から眺めてみると、再生可能エネルギー、とりわけ太陽光発電が日本にとって「現代の黒船」としての役割を果たしていると言えるだろう。かつて1世紀半前の日本は、幕末から明治維新への大動乱期へ、内部矛盾を抱えた表面上の平穏・大きな衝撃・世論の沸騰・守旧への反動・そして大変革へと雪崩れ込んだ。今の日本のエネルギー分野は、それと同じような社会変化のプロセスが見てとれるのだ。
「再エネ主力電源化」とは、これまでのエネルギー分野の専門家やエネルギー業界人にしてみれば、「天動説」から「地動説」への転換に等しい。これまで再エネに真っ向から否定していた「御用専門家」たちが、否定から慎重へジワリと発言を変えつつあるのは、滑稽でさえある。そういう「御用専門家」たちによる「第5次エネルギー基本計画」の内容はお恥ずかしい限りだが、「再エネ主力電源化」を掲げただけでも歴史的な役割を果たしたといえる。こうして国が「地動説」(=再エネ主力電源化)にかたちだけでもお墨付きを与えたことで、もう一つの雪崩現象が起き始めている。グローバル企業がこぞって参加しつつある「RE100」だ。事業運営や部品調達も100%自然エネルギーで行うことを目標に掲げる企業が加盟するイニシアチブで、自然エネルギー100%を意味する英語の頭文字から命名されている。2014年に発足し、2018年3月時点で、世界全体で129社が加盟している。アップルやグーグルなどの大手IT企業、食品世界大手スイスのネスレ、家具世界大手スウェーデンのイケア、アパレル世界大手米NIKE、自動車のBMWなど日本でもよく知られれている企業が数多く含まれている。今日では欧米にとどまらず、中国やインドの企業にも広がりを見せている。
ところが日本はこの動きに取り残されてきた。「非化石燃料」という言葉で自然エネルギーと原発をわざとごちゃ混ぜにして原発推進の隠れ蓑にしてきた国や経団連は、脱原発を意味する「自然エネルギー100%」の動きに対して陰に陽に圧力をかけてきたからだ。ようやく昨年にリコーがRE100の宣言を行い、今年から環境省もRE100の後押しを始めたこともあって、「バスに乗り遅れるな」とばかりに、現在までに、積水ハウス、大和ハウス、アスクル、ワタミ、城南信用金庫などと続いて現在10社となった。ここにきてRE100へも「雪崩現象」が起きそうな感じだ。時代が大きく変わる時というのは、こういうものなのだろう。