第20話 大陸間送電網(スーパーグリッド)の行方
モンゴルで開催された安全保障に関する国際会議に呼ばれて出てみると、当然ながら最重要テーマの一つであるエネルギーでは、風力や太陽の資源に恵まれているモンゴルが舞台なだけに、ソフトバンク代表の孫正義氏が3・11後に提唱した「アジア・スーパーグリッド」が、今でも主要なトピックスとして議論で大きく取り上げられていた。
アジア・スーパーグリッドとは、北東アジアやロシア、日本、さらには東南アジアまでをも高圧直流送電線(スーパーグリッド)で結んでしまおう、という壮大希有な構想だ。もともとは、北アフリカの豊富な自然エネルギー資源で発電し、それをスーパーグリッドで地中海を越えて欧州大陸へと送電する「デザーテック」という構想があり、それを北東アジアに置き換えて「ゴビテック」と呼ばれていた構想を、3・11後の2011年に孫氏が取り上げてぶち上げたものだ。さて、このアジア・スーパーグリッドは、これからどうなってゆくのだろうか。楽観論と悲観論がある。
技術論と経済面から見ると、楽観的な見方となる。アジア・スーパーグリッドを建設する技術は、北欧などでも実設備がいくつも見られるとおり、すでに充分に実用化されているもので、各国の電気料金の差額を見れば、経営的・経済的に充分に投資に見合う、というものだ。
他方、政治的な現実から見ると、悲観的な見方となる。昨今の南北首脳会談や米朝首脳会談など朝鮮半島は融和モードとはいえ、周辺のロシア、中国などを含めて、政治体制も市場の構造も電力体制もことごとく異なっている。とりわけ日本は、周囲の全ての国と軋轢を生んでいる状況だ。そうした中で、アジア・スーパーグリッドを建設する合意はもとより、そうした気運すら起きにくそうだ。悲観論を補強するさらなるワイルドカードがある。太陽光発電、風力発電、そして蓄電池という、現在進行中の「分散エネルギー革命」の主役たちが急激にコストを低下させつつあることだ。これらの普及が予想をはるかに上回るかたちで進むことで、当初計画していたほどの大規模な送電容量を必要としなくなってゆく可能性がある。
さて、この先、「現実」はどのように展開するのだろうか。