第19話 水素の行方

2018年05月24日

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日本政府は、「カーボンフリーな水素社会の構築を目指す水素基本戦略」を昨年2017年12月26日に策定し、2020年東京オリンピックを水素社会の見本市にする、福島県に世界最大級の水素工場を造る、などなど「水素社会」に突っ走ろうとしている。だが、この方向で本当に大丈夫なのか?

目を世界に転じると、電気自動車(EV)が驚異的な成長を遂げつつある。過去6年間にわたって年率160%のペースで市場が拡大し、この6年で市場が100倍増し、なお加速度的に成長している。コア技術となるバッテリーも過去6年で4分の1に下落し、なお低下しつつある。昨年発売されたGMのボルタやテスラのモデル3は、中高級車レベルの価格に達し、課題とされてきた航続距離も400km程度と実用性で十分な性能に達している。電気自動車(EV)は、コンピュータや太陽光発電と同じく典型的な「技術学習効果」を観察することができ、今後も太陽光発電と同様に、継続的な性能向上と価格低下、そして「指数関数的な成長」を遂げると見られている。さらに、部品数も多く高度な製造技術が必要とされるガソリンエンジンに比べて2桁も部品数が少なく組み立てが比較的に容易な電気自動車(EV)は、既存の自動車メーカはもちろんのこと、圧倒的に数多くの新規者が参入してきており、既存の産業秩序やエコシステムを大きく変える可能性がある。これに比べると、EVの約10倍と今なお高額な水素燃料電池車(FCV)の「市場」はEVの100分の1以下で、実質的に開発を進めているのは日本だけ、自動車メーカもトヨタ、ホンダ、現代の3社に限られる。日本だけで見ても、7000箇所を越える急速充電器に対して、水素ステーションはわずか80箇所しかなく、およそインフラですらない。

それだけではない。現在、進行しているのは、たんに電気自動車(EV)かガソリン車・ディーゼル車か、はたまた水素燃料電池車(FCV)か、という選択ではない。人工知能や3次元センサー、次世代高速通信(5G)、IoTなど同時並行で加速度的に進展する技術群に支えられて急速に実用化が進む自動運転と、ウーバーに代表されるライドシェア型のビジネスモデルも同時進行で進展することに加え、これらに電気自動車(EV)を加えた新技術・新ビジネスモデルの統合(コンバージョン)が進行している。これによって、「化石燃料車の販売・所有」から「電気自動車による自動輸送サービス」(TaaS)へと、世界全体の自動車産業界や石油産業界を根底からひっくり返す「破壊的変化」が10年スパンで起きようとしているのだ。

その目線から日本政府の「水素基本戦略」を振り返ると、あまりの時代認識の無さと危機感の欠落、「明後日」の方向を見ている「戦略」は滑稽でしかない。これが単なる一企業の失敗なら市場から淘汰されるだけだが、コトは国家戦略なのだ。国がこの夏にも決定しようとしている「エネルギー基本計画」にも、この「水素基本戦略」がそのまま盛り込まれている。このままでは、日本は本当に「沈没」しそうだ。