第13話「安すぎる風力」によるデンマークの「新しい現実」
現在、日本のバイオマス発電が問題視されている。1000万キロワットを越える燃料を東南アジアなどのパーム油やヤシ殻、木材チップなどに依存しており、持続可能ではない恐れがあることに加えて、発電のみ(いわゆるモノジェネ)の利用のためにバイオマス資源の有効活用がされないことも批判されている。
社会全体でのエネルギー効率を高めるためには、発電だけでなくその廃熱を温熱や暖房に有効活用するコジェネレーション(コジェネ、CPH)は重要である。以前も紹介したとおり、オール電化に対してコジェネを利用することで一次エネルギーは半減する(図表1)。ただし、コジェネの廃熱を温熱や暖房に有効活用するには、地域熱供給のネットワークが不可欠であるが、地域熱供給がほとんど普及していない日本での利用が遅れているのが実態だ。
それもあって、日本のFIT(固定価格買い取り制度)では残念ながらバイオマス発電にコジェネを義務づけていないが、デンマークでは1970年代から、ドイツでも2000年頃から、蒸気またはタービン発電する場合にはコジェネを義務づけている。その「コジェネ先進国」のデンマークで、今後はコジェネを減らしてゆく方向だという。なぜか。
第1に、風力発電が「安すぎる」ことだ。上記図表1のとおり、「安すぎる風力発電の電気」をそのまま供給したり、電気が余る場合にはヒートポンプで温熱を作る方が安くなってきたのだ。第2に、デンマークで普及が進む嫌気性発酵からのバイオガスも、従来はガスエンジンなどのコジェネで利用していたが、今後はガスをそのまま利用する方針に切り替えるという。風力発電が「安すぎる」ため、バイオガス(主成分はメタン)はそのままガスとして天然ガスパイプラインに入れた方が価値があるという判断だ。
さらに衝撃的なのは、バイオガスの精製や他のバイオマスコジェネから回収する二酸化炭素は、今後、「余った風力発電」で生み出した「グリーン水素」を添加することでメタンガスに改質するというのだ。自然エネルギー由来のメタンガスとなり、二酸化炭素の排出を減らすばかりか、理論上は大気中の二酸化炭素を正味で削減する効果を持つ。
日本ではまだ遠い夢だが、「安すぎる風力発電」はデンマークにまったく「新しいエネルギー現実」を生み出そうとしている。