第7話 「現代の百姓」〜エネルギー兼業農家

2017年05月19日

「ソーラーシェアリング」が注目されています。先日も、千葉県匝瑳市でのメガソーラーシェアリング竣工式に、総理経験者が3名も揃い踏みしてニュースなどで話題になりました(写真)。ソーラーシェアリングとは、「太陽」(ソーラー)を「分かち合う」(シェアリング)という意味ですが、日本では耕作しながらその農地を太陽光発電に利用するという意味で使われます。

170515

写真 総理経験者が3名が揃い踏みした千葉県匝瑳市でのメガソーラーシェアリング竣工式
(Yahooニュース2017年4月17日より)

 

一般に農地は日照が良い上に整地されているため、太陽光発電には持って来いの土地ではありますが、国内の食料生産力を維持するためには農地の保全が欠かせません。そのため、太陽光発電と農業との間で、土地利用を巡るコンフリクトがありました。国も、その解消を目指して「農山漁村再生可能エネルギー法」(農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律、2014年5月施行)を整備しましたが、必ずしも十分とはいえません。

そこで改めて注目されたのが、長島彬氏が提唱・実践してきた「ソーラーシェアリング」です。一般に植物には「光飽和点」があるため、多少の日陰があった方がむしろ収量が上がるという特徴を持っています(図)。それを活かして、田畑の上に3分の1程度の面積の太陽光発電を設置し、その下で耕作をするという考えが生まれました。

 

170515-2

図 光飽和点(出所:熊本ソーラーシェアリング研究協議会)

 

ドイツやデンマークを見ると、地域エネルギーの担い手の中心は農家です。自然の豊かな地域で長い間広大な土地を管理してきた主体であるということに加えて、「太陽エネルギーと土地から生産する」という基本原理でも農業と自然エネルギーはとても相性がよい組合せとなります。バイオマスエネルギーでは、さらに循環が加わります。太陽エネルギーで作物を育て、その作物から食料と廃棄物ができ、その廃棄物と食料からの廃棄物がバイオマスエネルギーと養分が得られ、それがまた太陽エネルギーで作物生産へと循環してゆきます。

農家の所得も安定します。自然エネルギーからの収入がベースとなり、作物の生産による直接収入と、さまざまな加工による高付加価値化(いわゆる六次化)という収入の多元化・多様化が職業としての農業を安定させます。それはさらに、オーガニックカフェや地産地消レストラン、地域でのアートやツーリズムとも繋がって、地域にさまざまな職を生み出す可能性と一人ひとりがさまざまな能力を発揮できる可能性の両面を生み出します。

もともと「百姓」とは、「たくさんの姓を持つ人」という意味で、つまり一人でいくつもの職業や役割を兼ねていたことから来ています。田畑を耕しながら、林業を担い、ワラジを編み、農機具を創り、美容師や僧侶、医師、教師も兼ねていたといいます。

ソーラーシェアリングをきっかけに、今、地域で生まれつつあるのは、まさに「現代の百姓」といえるでしょう。農家であると同時に「発電所長」であり、同時にカフェ店主であったり、農家民宿のオヤジであったり、ITを使った商店主であったり、さらにはブロガーや作家やデザイナーであったりするわけです。こうした地域で地域自立的な生産活動をしながら、創造的な暮らしを営んでいく、「現代の百姓」というライフスタイルでは、手間もかからずに安定した収入を生んでくれる地域エネルギーが基盤となる力が大きいのです。