第1話 エネルギー・シンギュラリティ 

2016年11月21日

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 エネルギー・シンギュラリティ

                       飯田哲也(エネルギー・チェンジメーカー)

世界では、自然エネルギーの変化がますます加速しています。風力発電が昨年だけで6千4百万kW増え、累積では原発の設備容量をぶち抜きました。太陽光発電も昨年5千万kW増え、累積で原発の発電容量の約3分2に達し、来年末には肩を並べる見通しです。

風力発電はもちろん、太陽光発電も世界の多くの国で他の発電コストと同等以下となりつつあります。今年9月にアブダビ(UAE)で完成した太陽光発電は3円/kW時を下回っています。高いと思われてきた自然エネルギーは安いことが常識となり、さらに限りなくタダに向かおうとしています(ジェレミー・リフキン「限界費用ゼロ革命」)。これは、歴史的にコンピュータのコストが下がり性能が上がってきた原理と同じ技術学習効果(ムーアの法則)によるものです。

                                                                                      今や「自然エネルギー100%」という目標も、異端ではなく当然のこととなりました。

アップルやグーグル、フェイスブックなどの国際的な大企業、コペンハーゲンやバンクーバーなどの国際的な大都市、そしてデンマークなど国レベルでも「自然エネルギー100%」を目標に掲げる大きなうねりが生まれています。

そのうねりが昨年末の地球温暖化サミットで196カ国が「パリ協定」に合意し、1年も要さずにスピード発効することの原動力となりました。自然エネルギー利用拡大で最も重要な送電系統においても、ベースロードは時代遅れの考え方となり、代わって柔軟性が重要な考え方となりました。風力や太陽光などの自然変動型の自然エネルギー電源を数十%という高い比率(一時的には100%を超える場合もある)で受け入れる系統運用が、欧州各国では広がっています。

電気自動車、とくに蓄電池も、同じムーアの法則によって、ここ数年の急激な普及につれて急速にコスト低下と性能向上が進みつつあります。中でも電気自動車界の「iPhone」に喩えられるテスラ・モーターズ社代表のイーロン・マスクは、分散設置型の太陽光発電をビジネスモデルとするソーラーシティを吸収合併して、分散型の自然エネルギー100%という社会モデルをビジネスから創りあげようとしています。コンピュータの世界では、ムーアの法則の行く末、2040年あたりに人工知能の能力が人間を越えることが予想されています(シンギュラリティ=特異点)。

エネルギーの世界でも、現在の加速度的・爆発的な太陽光発電や風力発電の普及拡大は、何らかの特異点(シンギュラリティ)を迎えると見て良いのではないでしょうか。

世界の主要国の中でもっともエネルギー自給率が低く、しかも福島第一原発事故という未曾有の危機を経験した日本にとって、自然エネルギーは他のどの国よりも恩恵があるはずです。にもかかわらず、世界各国で進む加速度的かつ構造的な変化に、日本は背を向けて立ちすくんでいるように見えます。

                                                                                                                                                                            さてこれから、エネルギー・シンギュラリティの旅に出かけてみましょう。

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