第4話 地域電力会社、あるいはシュタットベルケの時代

2017年02月13日

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第4話 「地域電力会社、あるいはシュタットベルケの時代」

 


昨年(2016年)4月、いよいよ電力小売りの全面自由化が始まりました。需要家数8000万件・およそ8兆円の小売電力市場が開かれるということで、一時期、世間は沸き立ちました。かつての電話の自由化やインターネット黎明期を彷彿とさせるように、街頭チラシやTV・インターネット上の公告などでも宣伝合戦が宣(かまびす)しい時期が続きました。およそ400社の新しい電力会社が名乗りを上げ、今後も続々と増える見込みですが、その中でとくに注目されるのは「地域電力会社」です。

念のため、「全面自由化」されたとはいえ、現状の電力市場には「3つの歪み」があることに注意してください。

第1は、東京電力の歪みです。福島第一原発事故後に国から「交付国債」という名のもとで10兆円もの資金枠が与えられ、本業でどれだけを赤字を出そうとも「黒字」が維持(操作)されてきました。それだけでなく、東京電力の福島第1原発の「廃炉」費用や他電力の廃炉積立不足の資金を、あろうことか託送料金に乗せて国民から徴収する制度「改悪」が行われようとしています。こうした国を後ろ盾にした東電が、市場競争を行うという、不公正な競争条件です。

第2は、電力会社が持つ原発による歪みです。原発のコストの多くを全需要家が負担させられてきた一方で、原発再稼働した場合に節約される燃料費を値引き原資に、電力会社がいっそうの市場競争力を持つことになり、原発再稼働へのいっそうの圧力となります。

第3は、既存の電力会社による送配電線の独占の歪みです。2020年までには発送電分離される計画ですが、その後も電力会社の小売部門と送電部門は利益共同体のままです。日本の託送料は世界的に飛び抜けて高い上に、そのコスト構造は十分な透明性はなく、しかも託送料金が高ければ高いほど、利益共同体としての電力会社に有利となる構造があります。

こうした「3つの歪み」にも関わらず、電力小売り自由化は盤石だった電力独占体制が変わる第1歩になる可能性があります。今後、重要な選択は二つあります。一つは電力会社というより脱原発・自然エネルギーの電気を選ぶかどうかです。自然エネルギーの表示を認めない国に対し消費者団体が異論を唱え、「FIT電源」(=自然エネルギー電源)の表示までは認められました。また電力会社の電源表示については「勧告」で落ち着きました。
もう一つは、2020年よりも先の話になりますが、ドイツ各都市で見られる地域の配電網を買い取って「再公有化」する地域電力会社(シュタットベルケ)ができるかどうかです。その先駆けとして、みやまスマートエネルギーのように、地方自治体に密着した地域電力会社がいくつか誕生しつつあり、一部ではありますが「自営線」で地域配電網を整備する取り組みも始まっています。

地方自治体では従来から上下水道やゴミ収集、バス・地下鉄などを「公営事業」として行ってきています。また電力も戦前は数多くの地域電力会社があり、その一部は地方公営でした。地域の配電網を「再公有化」する動きは、1990年代からの民営化・規制緩和の流れに逆行するように見えます。しかし実は、行き過ぎた市場原理主義の歪みを正すとともに、送配電網が道路や空港、港湾と同じく市場経済や現代社会を支える「公共インフラ」であることを再確認する動きと捉えれば、自然な動きとみるべきでしょう。

また地域電力会社は、他のさまざまな地域サービスと連携することが特徴です。高齢者の「見守り」や行政からの「お知らせ」、市民と市の双方向コミュニケーション、地域コミュニティの「マルシェ」の提供、省エネサービス(HEMS)など、行政と連携した地域電力会社ならではの、電力に留まらない地域ぐるみのコミュニティサービスの取り組みが見られます。

こうした地域電力会社、日本版シュタットベルケも、進みつつある分散エネルギー革命で大きな役割を担うに違いありません。