第2話 自然エネルギー100%へのビッグトレンド

2016年12月19日

第2話「自然エネルギー100%へのビッグトレンド」

飯田哲也(エネルギー・チェンジメーカー)

これまでの10年で生じた原発や化石燃料の退潮と自然エネルギーの飛躍的な成長、さらにエネルギーの地産地消への体制変化(レジームチェンジ)は、一部の地域や一時期に例外はあったとしても、世界史的には引き続き加速的に続くことは確実だと思われます。

2015年12月のパリ気候変動サミットで京都議定書に代わる新しい長期的な枠組みが決まるなど、気候変動の制約は強まってゆくばかりです。自然エネルギーは、今日、温室効果ガスの抑制とエネルギー安全保障、そして産業経済の成長の3挙両得の中心的な施策となりました。

自然エネルギーは、ほんの数年前まで「クリーンだが高コストで不安定なエネルギーで供給のごく一部を占めるだけ」と受け止められていました。ところが今や「安くて信頼できしかもクリーンで100%エネルギー自給できる」へと、正反対の認識転換が生じています。

従来の化石燃料や原発の基本原理が「資源採掘型エネルギー」であるのに対して、自然エネルギー(とくに風力発電と太陽光発電)の基本原理は、「技術と知識の蓄積型エネルギー」であることから、コンピュータと同じく「ムーアの法則」(技術学習効果)によって、劇的にコストが下がってきたのです。つまり「たまたま起きたこと」ではなく、自然エネルギー技術の基本特性から「必然的に」コストが下がってきたのです。

太陽光発電のコストは、1975年からの40年で200分の一に下がり、2010年からの6年で30%(10分の3)に下がりました(図表1)。太陽光発電の電力は、もっとも安いところでは3円/キロワット時を下回るなど、世界の多くの国で電気料金を下回っただけでなく、他の電源の発電原価を下回りつつあります。この性能の向上と価格低下は今後も続いてゆくとともに、基本原理的に「燃料費ゼロ」の自然エネルギーが社会ストックとして拡大してゆくことで、エネルギー「限界費用ゼロ」へと限りなく近づいてゆくことになります。

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いくら「限界費用ゼロ」となっても、それが市場に受け止められないと価値がありません。そのために重要な要素は、送電系統がどれだけ出力変動型の自然エネルギーを統合できるか(系統運用)、そして電力市場がそうした「限界費用ゼロ」の電力を受け入れることができるか(電力市場)の2つが決定的に重要になります。

この2つの領域でも、大きな進化が起きています。太陽光発電や風力発電などの変動型の自然エネルギー電源は系統全体の数%までが「旧い常識」でしたが、すでにデンマークやドイツ、スペインで風力や太陽光などの変動する自然エネルギーが50%や時には100%を超える比率で入る電力系統が運用されており、自然変動型電源が80%までは蓄電など特別な追加手段を必要とせずに系統に統合できる、というのが「新しい常識」となっています(図表2)。

 

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(出典) 水上・安田他: 再生可能エネルギー開発・運用にかかわる法規と実務ハンドブック,エヌ・ティー・エス (2016)

 

その鍵となっているのが「ベースロード電源」から「柔軟性」へと、概念レベルで大きな転換が起きたことです。これまでの電力独占市場の世界では、電力需要の一日・一週間・季節間の変動に合わせて、ほぼ一定出力で安定供給する「ベースロード電源」、大きな出力変動に合わせて中間部分を担う「ミドル電源」、そして昼間のピークや瞬時の変動に対応する「ピーク電源」の3つに大別されていました。これら3つの電源を変動する需要に合わせて運用する「供給サイド」での対応が主体でした。

ところがデンマークやドイツなど自然エネルギー比率が高くオープンな電力市場の世界では、当然ながら限界費用が安く(時にはマイナスになる)自然エネルギー電源が優先して市場に入ります(優先給電)。その変動する自然エネルギー電源と変動する需要との「差分」を、リアルタイムの気象予測を活かして先取りをしながら、需要側の応答(デマンド・レスポンスやネガワット)も含めて、オープンな電力市場を最大限活用することで、費用の効率化しながら電力市場の「柔軟性」を高めているわけです。

 

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